「遠い海から来たCOO」(景山民夫)

夢のない時代になった今こそ、夢のあふれる小説を

「遠い海から来たCOO」
(景山民夫)角川文庫

母親を失い
南の島で父親と暮らしている
少年・洋平は、入り江の中で
謎の幼い生命と出会う。
洋平はその泣き声から、
その生きものを
COO(クー)と名付け、
世話をし始める。それは古代の
恐竜・プレシオザウルスの
生き残りであった…。

2014年にはハリウッド版「ゴジラ」が、
そして2016年には「シン・ゴジラ」が、
さらに今また
「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」
スクリーンを賑やかにしました。
太平洋での水爆実験の放射能により、
怪物が誕生したという
設定で始まったゴジラ。
日本ではこの手の特撮が下火になり、
淋しい時代になりました。
夢のない時代になった今こそ、
夢のあふれる小説を
読み尽くしたいものです。

本作品の前半は、大自然に囲まれ、
自然の一部となっている
洋平の生き方が
見事に描出されています。
イルカのブルー&ホワイトチップ、
犬のクストーと意志を通わせる洋平。
そこにCOOが加わるのです。
フィジー・パゴパゴ島で暮らす
人と動物の関係が
たまらなく愛おしいのです。
無意識のうちに
洋平を応援していました。

そして同時に前半は
洋平の成長物語となっています。
生まれたばかりのCOOを、
洋平は知識を総動員して
育てようとするのです。
その姿は「母親」そのものです。
母親の記憶のほとんどない洋平が、
COOの「母親」になろうとする姿には
心を打たれます。

物語は謎の女性・キャシーが
現れたところから
急展開していきます。
後半はCOOをめぐる
一代冒険活劇へと変わるのです。
仏軍傭兵部隊を、
洋平の勇気と機転、
キャシーの大胆さ、
そして父親・徹郎の優しさで
見事に切り抜けます。
COOを奪われるものの、
その後の奪還劇も秀逸です。
終末は感動の嵐です。

多分、前半と後半のこのギャップは
賛否両論だと思うのですが、
これがこの作品の
独特の世界を形成しています。
この突然のギアチェンジ、
私は好きです。

さて終末で、
COO一族の存在が明らかになり、
フランスの海洋核実験は
中止に追い込まれます。
ゴジラは海洋核実験で生まれましたが、
COOはその存在で
海洋核実験を阻止する対比が
何とも言えません。

恐竜の子孫が現代に生きていた。
それだけでもわくわくするのに、
大自然と成長物語と冒険活劇、
夢がありすぎです。
面白くないはずがありません。
中学校1年生にぜひ薦めたい作品です。
この本から読書の楽しさを
知ってもらいたいと思います。

(2019.7.11)

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